毎朝出勤するたびに、なんとなく心が重くなる…。オフィスに足を踏み入れると電話の着信音や同僚たちの雑談、人の気配に圧倒されてしまい、終業まで心がすり減るような感覚。そんな違和感や疲れを感じたことはないでしょうか?私はまさにそんな状況に悩み、 HSP(Highly Sensitive Person)、いわゆる「繊細さん」の気質を持つ自分にはオフィス勤務が辛くなり、ついに退職という決断に至った一人です。HSPは生まれつきの気質であって病気ではなく、人口の15~20%(およそ5人に1人)に見られるごく身近な特性ですが、少数派ゆえに周囲の理解を得にくく、生きづらさを抱える人が多いと言われます。この記事では、私自身のリアルな体験談をもとに、オフィス勤務で感じた悩みから退職を決意するまでの葛藤、そして辞めた後の変化や気づきを綴ります。同じように職場で悩むHSPさんの心に、少しでも寄り添える内容になれば幸いです。
HSPがオフィス勤務で感じやすい苦労
辞める決断に至ったきっかけと葛藤
辞めた後の変化と働き方の工夫
繊細さを活かした働き方への気づき
オフィス勤務中に感じた違和感とHSPならではの苦労

オフィスで働いていた当時、私にとって職場は 「普通の人には何でもないこと」が常に負担になる環境 でした。その中でも特に辛かったことを挙げると、例えば次のようなものがあります。
- 周囲の雑音に疲弊する: オフィスでは常に電話の呼び出し音や同僚同士の雑談、人が出入りする物音が聞こえてきます。HSPの私はそうした何気ない生活音にも神経が刺激されてしまい、意識しないよう努めても勝手に耳に入ってきて集中力が途切れてしまいました。一日中オフィスのざわつきの中にいるだけでヘトヘトになり、毎晩家に帰るとぐったりとしていました。
- マルチタスクとプレッシャーに押し潰されそうになる: 仕事では同時にいくつもの案件を進めたり、タイトな納期に追われたりすることが珍しくありません。しかし一つひとつのタスクを丁寧にこなそうとするあまり、私は並行して色々な作業を振られると頭がパンクしそうになりました。上司や取引先からの期待に応えなければと必要以上に頑張ってしまい、結果的に自分で自分にプレッシャーをかけて疲弊してしまうのです。「早く、効率良く」と急かされるほど空回りしてしまい、心臓はバクバク、常に追いつめられている感覚でした。
- 人間関係で些細なことに深く傷つく: 同僚や上司からの何気ない一言やちょっとした指摘が、どうしても心に突き刺さってしまいます。「悪気はない」と頭では分かっていても、「自分の何がいけなかったのだろう…」と必要以上に考え込んで落ち込むこともしばしばでした。周囲にとっては冗談まじりの軽いコメントでも、私にとっては立ち直るのに時間がかかるほど大きなダメージになることがあります。職場では常に誰かと接する以上、こうした小さな心の傷が積もり積もって、いつも緊張と不安を抱えていました。
これらの苦労は、HSP気質ゆえに感じてしまう繊細さから来るものです。実際、HSPの人は職場の環境や人間関係から強い影響を受けるためストレスを抱えやすく、無理を続けると適応障害など心や体の不調をきたして仕事を続けられなくなる場合もあるといいます。私の場合も、「みんな普通に働けているのに、自分だけどうしてこんなに疲れてしまうんだろう…」と自分を責める気持ちと、「このままでは心が壊れてしまうかもしれない」という不安の間で、心身ともに限界が近づいていきました。
辞める決断に至ったきっかけと心の葛藤

そんな日々を送る中で、少しずつ「このままでいいのだろうか」という思いが募っていきました。決定的だったのは、ある朝ついに布団から起き上がれなくなってしまったことです。前夜から激しい頭痛と動悸がして眠れず、身体が鉛のように重い…。「仕事に行かなきゃいけないのに、体が動かない」という事態に自分でもショックを受けました。心療内科を受診すると「極度のストレスによる自律神経の乱れ」と言われ、このまま無理を続ければ本当に適応障害になりかねないと感じました。
退職を具体的に考え始めたものの、そこに至るまでには大きな葛藤がありました。頭では「もう限界。自分を守るために辞めるしかない」と分かっていても、心のどこかで「ただ自分が情けないだけなんじゃないか」「ここで辞めたら周りに迷惑がかかるのでは?」という声が消えません。実際HSPの人はとても気遣いなため、「自分が辞めたら職場に穴を開けてしまうのでは」「退職を切り出した後、引き継ぎまでの期間の周囲の視線に耐えられるだろうか」などと考えすぎてしまいがちだと言われます。私もまさにそうで、「逃げるように辞めるなんて無責任だと思われないか」「甘えだと批判されたらどうしよう」と、誰から言われたわけでもない否定的な言葉を頭の中で何度もシミュレーションしては、不安で押しつぶされそうでした。
とはいえ、日に日に増していく心身の不調は無視できませんでした。このまま頑張り続けてしまったら、本当に自分がダメになってしまう -そんな予感があったのです。あるとき信頼できる先輩に思い切って悩みを打ち明けてみたところ、「あなたは十分よく頑張っているよ。決して弱いわけじゃない。環境が合っていないだけなんだよ」と言われ、張りつめていた糸がプツリと切れたように涙が溢れました。「会社より自分の心と体を大事にしていい」-その言葉に背中を押され、私はついに退職の意志を固めました。いざ上司に伝えるときは心臓が震える思いでしたが、「申し訳ありません」と何度も頭を下げる私に、意外にも上司は困惑しながらも受け入れてくれました。
退職後に訪れた変化と新しい働き方

会社を辞めた翌朝、久しぶりに心からホッと息が吐けたのを覚えています。窓から射し込む朝日を浴びながら、「ああ、こんな穏やかな気持ちで朝を迎えたのは何年ぶりだろう」と感じました。退職直後はしばらく罪悪感や将来への不安もありましたが、それ以上に心身が解放された安心感のほうが大きかったです。日に日に体調も良くなり、眠れなかった夜が嘘のようにぐっすり眠れるようになりました。毎日悩んでいた頭痛や胃の重さもいつしか消え、「自分はダメな人間だ」という自己否定感も薄れていきました。
しばらく充電期間をとった後、私は自分に合った働き方を模索し始めました。もう二度と以前のように心をすり減らして働きたくなかったからです。幸い今はテレワークなど柔軟な働き方が広がっています。私は思い切ってフルリモート勤務が可能な職場に転職しました。在宅であればオフィスの雑音に悩まされることもなく、自分のペースで仕事に集中できます。実際、専門家も仕切りのあるデスクや半個室のブースを活用したり、可能であればリモートワークやフレックス制度を取り入れることで、HSPでも働きやすい落ち着いた環境を整えられると指摘しています。まさに環境をガラリと変えたことで、仕事中のストレスは格段に減りました。
加えて、私は自分なりに工夫していることがいくつかあります。例えば、タスク管理です。以前の私はあれもこれもと一度に抱え込んでパンクしてしまっていたので、今は朝にその日のタスクをリストアップし、優先順位をつけて一つずつ片付けるようにしています。そうすることで「何から手をつければいいんだろう」と混乱することが減り、達成感を積み重ねながら落ち着いて働けるようになりました。また、在宅勤務でも無理は禁物なので、適度に休憩を取ったりリラックスできる音楽を流したりして、自分の感覚がいっぱいいっぱいにならないよう調整しています。心のモヤモヤを抱え込まないように、ときには信頼できる友人に話を聞いてもらったり、必要に応じてカウンセリングを利用することもあります。HSPはストレスを内に溜め込みやすい傾向があるからこそ、意識的にガス抜きする時間を確保するよう心がけています。
こうして働き方を見直した結果、「仕事ってこんなに穏やかな気持ちでできるものなんだ」と目からウロコが落ちる思いでした。もちろん職場が変わったからといって何もかも順調、とまではいきませんが、少なくとも以前のように毎日怯えながら過ごすことはなくなりました。何より、自分の特性を否定せずに活かせる場所で働けていることで、少しずつ自己肯定感も取り戻せています。「自分は環境さえ整えばちゃんと力を発揮できるんだ」と実感できたのは大きな収穫でした。
まとめ:同じ悩みを抱えるあなたへ
オフィス勤務に疲れ、「もう限界かもしれない…」と感じているHSPの方へ。まず伝えたいのは、あなたは決して弱くも怠けているわけでもないということです。感じ方が人より繊細なだけで、ちゃんと頑張っている自分をどうか責めないでください。冒頭で触れたようにHSPの気質を持つ人は5人に1人程度存在し、ごくありふれた特性です。ただ多数派ではないぶん周囲に理解されにくく、職場でも孤独を感じやすいかもしれません。でも、あなたと同じように悩んでいる人は確かに存在しますし、何より あなた自身が自分の辛さを一番よく分かってあげてください。
「仕事を辞めるなんて甘えだろうか」「周りに迷惑をかけてしまうのでは」と悩み抜いた末に私が出した答えは、「自分の心身を守るために環境を変える勇気も時には必要」ということでした。無理を重ねてボロボロになってしまう前に、逃げ道を用意することは決して悪いことではありません。もちろん、いきなり退職となると現実的に難しい事情もあるでしょうし、必ずしも辞めることだけが正解ではないと思います。在職中でも配置転換を相談してみたり、テレワーク等の制度を活用できないか模索したり、働き方の調整で改善するケースもあるでしょう。大切なのは「自分が少しでも安心して能力を発揮できる環境とは何か」を諦めずに追求してみることだと感じます。
私自身、退職に踏み切るまでには相当悩みましたし、辞めた後もしばらくは「逃げてしまったのでは」という思いが消えませんでした。それでも今振り返ってみて、本当にあのとき決断して良かったと思っています。環境を変えることで、こんなにも自分らしく生き生きと働けるのかと実感できたからです。実はHSPならではの強みもたくさんあります。人一倍豊かな感受性は、物事の本質を見抜く深い洞察力や独創性につながります。また、高い共感力は職場で周囲に気配りしチームを支える長所にもなり得ます。そんなあなたの持つ素晴らしい資質が輝ける場所はきっとあるはずです。
どうか自分を大切に、そして自分を信じてください。同じHSP気質を持つ先輩として、あなたが少しでも心穏やかに働ける道を選べるよう応援しています。あなたの感じている生きづらさは、決してあなただけのせいではありません。無理に「普通」に合わせようとして心をすり減らす必要はないのです。勇気を出して環境を変えたり、自分に合った働き方を模索することで、きっと今より楽に、そして笑顔で働ける日が来ると信じています。焦らなくて大丈夫。あなたのペースで、あなたらしい幸せな働き方を見つけていけますように。🍀
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